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蘭陵王 俊英は西王母からの書簡に幼さの残る顔を綻ばせた。
大輪の牡丹が一気に花開いたかの様な芳しい微笑を浮かべ、控えていた丞相《(宰相)玄齢《と大司馬《(将軍)天祥《、それから御史大夫《(天官長)平伯《に向き直った。
「武陵王君が…めでたいねぇ」
「御意《」
三人の壮年の近臣は言葉少なに首肯したが、その両眼には不信の色が覗いている。
信用ないんだなぁ、と俊英は心の中で呟いて、声にならない笑いを洩らす。
武陵王は名君、されど些か放埓に過ぎる。それが質実剛健、堅実を気風とする蘭陵国の朝臣の抱く印象であるから、仕方あるまい。西王母の策略通り、果たして武陵王が大人しくなるだろうか。今一つ−むしろ、今二つか三つ−信用ならないのだろう。
「それに、まさか本当に押し付けられたものを受け取るとも思えないし、さ」
俊英とて長い付き合いではあるから、その気性を知らない訳ではない。一方的に首根っこを押さえるような真似をすれば鋭利な牙を剥く、そういう男である。さすがに神仙に剣を向けはしまいと思うが、隆崇なら罵倒の一つや二つは投げつけるだろう。敬意と殺意を別扱いする奴だからなぁ、と俊英は軽く嘆息する。
「結婚祝《を送った方が良いかな?」
「誼《のある国で御座いますから」
「やっぱり、そうだよね。何か考えなくちゃ」
大男でも余裕で座れる玉座に、ちょこんと座った状態で、俊英は首を傾げた。脚が床に届かないので、どうしてもぶらぶらと揺らしてしまう。そうすると、主上、と玄齢から小言が飛ぶ。肩を竦めて足を止めた。
「何が良いかしら?」
「無難なものが宜しいでしょう」
「砂金…は即物的過ぎるか」
「宝玉を使った装飾品や袍衣《で如何でしょう」
玄齢の言葉に、俊英は手を打った。
「そうだね。それから、剣も二振り」
「二…?」
「うん。男用と女用と」
は?と問い返す堅物の三人を前に、俊英はにっこりと微笑む。
見かけだけは彼らの孫と変わらない様な子供だが、蘭陵王として統治する手腕は並大抵ではない。あどけなく可愛らしい微笑の裏で、常に電光石火の思考回路が驚異的な回転をしている事を、蘭陵国の朝臣で知らぬ者はない。
「どうやら、かなり手強い娘子《さんみたいだから、ね」
「手強い、ですか」
「うん。とっても手強そう」
それだけ言って、俊英は書簡を片付けた。
なかなか手の込んだ仕掛けだ、と思いながら。
「まあ、確かに並みの女性じゃ武陵王君には勝てないしねぇ。それにしても、西王母様も本気みたいだな。僕に連絡して寄越すあたり、とっても嫌がらせだもの。蘭陵王から婚礼祝の使者が来たら、武陵桃源国内だけじゃなくて蓬莱全土に婚礼を宣伝する様なものだもの。今は何処の国の民も王の離縁に拒否反応を示すから、離縁も易々とできなくなっちゃうかも。それもこれも、うつけ者の海陵王の所為だよねぇ…」
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